大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成6年(ワ)9932号 判決 1999年3月18日

大阪市中央区東心斎橋一丁目七番九号

原告

株式会社アンジェラ

右代表者代表取締役

田中秀二

右訴訟代理人弁護士

米田宏己

西信子

北薗太

山崎邦夫

兵庫県西脇市鹿野町一三四六番地

被告

株式会社レナウン・エスパ

右代表者代表取締役

中村孝三

右訴訟代理人弁護士

柴田美喜

右訴訟復代理人弁護士

向来俊彦

東京都渋谷区代々木三丁目三九番一五号

被告

株式会社ダリ

右代表者代表取締役

伊藤睦子

右訴訟代理人弁護士

鈴木亜英

井上洋子

東京都板橋区高島平一丁目三五番一号

被告

株式会社ベスタイル

右代表者代表取締役

南方由子

右訴訟代理人弁護士

工藤裕之

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、原告に対し、各自金八〇〇〇万円及びこれに対する被告株式会社レナウン・エスパは平成六年一〇月一三日から、被告株式会社ダリは同年同月一四日から、被告株式会社ベスタイルは同年同月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  基礎となる事実(当事者間に争いがないか、各項に掲記の証拠又は弁論の全趣旨により認められる。)

1  原告は、婦人用下着の企画、製造、販売及び輸出入を主たる業とする株式会社(平成三年一二月一二日設立)である。

2  被告株式会社レナウン・エスパ(以下「被告レナウン・エスパ」という。)は、ファウンデーション衣料及びその関連製品の製造、加工及び販売を主たる業とする株式会社である。

3  被告株式会社ダリ(以下「被告ダリ」という。)は、衣料品の製造、企画及び販売を業とする株式会社である。

4  被告株式会社ベスタイル(以下「被告ベスタイル」という。)は、婦人下着の製造、販売を主たる業とする株式会社である。

5  原告は、平成四年四月一日から、別紙物件目録(一)の1ないし7記載の補整下着(以下、順に「原告商品1」等といい、総称するときは「原告商品」という。)に「マリアマリアン」のブランド名を付して、販売している。その販売方法は、原告を総発売元とする代理店契約を締結した代理店又はその下部組織のサロンにおいて、ファッションコーディネーターの体型診断や助言のもとに客が原告商品のサンプルを試着して購入を決定するという試着販売システムによっている。

6  被告レナウン・エスパは、平成六年三月から同年八月の間、別紙物件目録(二)の1ないし7記載の補整下着(以下、順に「被告ら商品1」等といい、総称するときは「被告ら商品」という。)を製造して被告ダリに販売し、被告ダリは被告ら商品を被告ベスタイルに販売し、被告ベスタイルは被告ら商品を訴外ルネ・ローランジャパン株式会社(以下「ルネ・ローラン」という。)を通じて訴外株式会社アンフィニー(以下「アンフィニー」という。)に販売した。アンフィニーは、平成六年五月から、被告ら商品に「ルネローラン」のブランド名を付して販売を開始した。なお、アンフィニーは、原告商品についての九州地区における販売代理店でもあった。

二  原告の請求

原告は、被告ら商品は原告商品を完全に模倣したものであり、元注文主であるアンフィニーの前記行為は、原告との間の代理店基本契約に反する著しく不公正な行為で、原告に対する債務不履行又は不法行為を構成するところ、被告ら商品の製造販売を行いアンフィニーの右行為に加担したことにつき被告らには故意又は過失があるから、被告らの行為は原告に対する不法行為を構成し、原告が被った損害を賠償する義務があると主張して、民法七〇九条に基づく損害賠償として金一億円の内金八〇〇〇万円及びこれに対するそれぞれ訴状送達の日の翌日である被告レナウン・エスパについては平成六年一〇月一三日から、同ダリについては同年同月一四日から、同ベスタイルについては同年同月一二日からそれぞれ支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるものである。

三  争点

1  被告ら商品は、原告商品の形態を模倣したものであるか。

2  被告レナウン・エスパは、被告ら商品の製造、販売に加担したことにつき故意又は過失があるか。

3  被告ダリは、被告ら商品の製造、販売に加担したことにつき故意又は過失があるか。

4  被告ベスタイルは、被告ら商品の製造、販売に加担したことにつき故意又は過失があるか。

5  被告らが、原告に対し損害賠償義務を負う場合に支払うべき金銭の額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(被告商品は、原告商品の形態を模倣したものであるか)について

【原告の主張】

1 補整下着とは、プロポーションをよくするための下着で、大別してブラジャー、ガードル及びボディスーツの三種類があり、ブラジャーはバストの補整を、ガードルはウエスト・腹部・ヒップ・太股の補整を、ボディスーツはブラジャーとガードルを一体化したもので、胴部全体の補整を目的とするものであるが、この実用的機能だけではなく、レーシーなファンデーションで女らしさを楽しんだり、ソフトなファンデーションで心まで軽くなったりといった内面的なおしゃれとしてのフィーリングやムードを高める精神的機能も有している。そのため、他社製品との差別化を図るために実用的機能面では、より身体にフィットしてボディラインを整えるのに適した身生地の選択、贅肉を押し込んだ状態を保持するための部分的な形状構造のデザイン、精神的機能面では、レースの選択、レース模様の配置位置、大きさ、形状及び重ね着した場合の全体的統一性や色彩等の選択に創意を凝らすことが必要である。

原告商品は、原告が右の観点から創意を凝らして開発したものであり、他社製品との差別化のため、従来の同種製品には見られないコンセプトに基づき、別表一の「原告の主張」欄に記載のとおりの共通した形態上の特徴を有し、かつ、別表二の「原告の主張」欄に記載のとおりの個別的形態上の特徴を有している。

被告らは、原告が挙げた原告商品の五つの特徴点はいずれも独自性がないと主張する。しかしながら、商品形態の模倣につき規制する不正競争防止法二条一項三号は、いわゆる先行者の成果にただ乗りする行為の一種として不正競争行為と位置付けられたものであり、特許や意匠のように創作やアイデアを保護する制度ではない。したがって、この規定によって保護を受けるべき商品形態には必ずしも独自性や特異性は要求されない。原告が挙げた原告商品の五つの特徴点は、いずれも没個性的な形態でもなく、競争上必須の形態でもないのであるから、同法二条一項三号の保護対象から除外されている「同種の商品が通常有する形態」ではない。したがって、原告商品の五つの特徴点には独自性がないという被告らの主張は、失当である。

2 被告ら商品1ないし7は、それぞれ対応する原告商品1ないし7の各形態上の特徴をすべて具備しており、いわゆるデッドコピーである。

被告らは、被告ら商品は原告商品を種々改良したものであり、デッドコピーではないと主張する。しかしながら、原告商品と被告ら商品との商品形態における差異は軽微なものであり、被告ら商品の改良した点というのは容易にできるものであり、脱法的意図に基づくものであって、原告商品との実質的同一性を否定する程度には至っていない。

【被告レナウン・エスパの主張】

1 原告が、原告商品の形態上の特徴と主張する点は、別表一の「被告レナウン・エスパの主張」欄に記載のとおり、補整下着が一般的に備えているものであって、形態上、特殊なものではない。したがって、仮に原告が形態上の特徴と主張する点において、被告ら商品が原告商品と一致又は類似していたとしても、そのことをもって被告ら商品が原告商品の模倣商品であるということはできない。

2 被告ら商品は、元見本である原告商品を参考にしているものの、被告ダリの指示に従って改良を施し、デザイン的、機能的により優れた商品を縫製したものである。原告商品と被告ら商品とは、数多くの相違点があり、被告ら商品は原告商品の模倣品ではない。主たる相違点としては、<1>カップを内側に寄せることによって、肌にフィットするようにしたこと、<2>胸が脇の方に流れないように、カップ脇にマーキーを入れるなどサイドの強度を高めたこと、<3>フロントのレース位置を変更し、デザイン性、機能性を高めたこと、<4>身生地を薄くてきめ細かい素材にしたこと、<5>ボディーシェーパーの裏打ちの切り込み山高を低くすることによって補整機能を強めたこと、<6>スリーインワンの丈を短くしてデザイン性を高めたこと、<7>ウエストニッパーについて、裏打ちの幅を広くすることにより、補整機能を高めたこと、といった点が挙げられる。

【被告ダリの主張】

1 補整下着が、バスト、ウエスト等の体型を補整する実用機能を持つことは認める。補整下着の機能は、この実用機能が第一であって、着ることによって気分が良くなること(これをもって原告が主張する精神的機能というかどうかは別にして)はあるが、これは補整下着に限らず、衣類一般に当てはまることであるから、精神的機能は補整下着が特に有する機能ではない。確かに、消費者が商品を選択する場合、デザイン性が実用的機能とともに考慮の対象となることは明らかであるから、製造販売に当たって消費者の視点からこの点に配慮することは当然のことであるが、補整下着が下着一般とは別に商品として流通していることからすると、補整下着の機能はやはり補整能力のあることが第一である。また、体型を整える機能は固く締め付ければ締め付けるほど上がるが、それでは窮屈であり、体に対する負担の少なさも一つの視点となり、製造販売する側は、補整機能と着心地のバランスに工夫を凝らす。

2 原告が挙げる原告商品の特徴点は、別表一の「被告ダリの主張」欄に記載のとおり、何ら特徴といえるものではなく、原告商品には法的に保護されるべきオリジナル性がない。仮に、原告商品に法的に保護されるべきオリジナル性があったとしても、そもそも原告は、訴外株式会社オペア(以下「オペア」という。)が製造した原告商品を仕入れてアンフィニーに卸していた中間業者にすぎない。したがって、原告商品のオリジナル性が害されたことによる違法性を追及することができるのは、商品化のために資本を投下したオペアのみである。

また、そもそも原告が原告商品個々の特徴であると主張する点は、別表二の「被告ダリの主張」欄に記載のとおり、何ら特徴といえるものではない。

3 被告ら商品と原告商品とは数々の相違点があり、原告商品と同一とは到底いえない。

【被告ベスタイルの主張】

1 原告が、原告商品に共通した特徴として主張するところは、別表一の「被告ベスタイルの主張」欄に、個々の原告商品の特徴として主張するところは、別表二の「被告ベスタイルの主張」欄にそれぞれ記載のとおり、既に他のメーカーにより商品化されている等何ら特徴的なものではない。もともと、不正競争防止法二条一項三号は、デッドコピー商品の販売は他人が費用、労力を投下して開発した商品につきその他人の市場先行の利益を不当に奪うことからこれを規制するのであるから、本件の場合、平成五年法律第四七号による同法の施行時期にかかわらず、原告商品は同法二条一項三号による保護を受け得ないものである。そうである以上、被告ら商品が原告商品と同一か否かについて検討するまでもなく、被告ベスタイルの行為が不法行為を構成することはない。

2 被告ら商品は、<1>被告ら商品3(スリーインワン)、同4(ブラジャー)及び同7(ウエストニッパー)の身生地は、パワーネットであって綿混トリスキンではなく、しかも、このパワーネットは原告商品に使用されている綿混トリスキンよりも細かい網目で薄い素材である、<2>グレーといいながらも、原告商品と同じグレーではない、<3>原告商品2(ボディシェーパー)では、背中部分の裏当てがV型であるのに対して長方形である、といった点で相違しており、原告商品と同一とは到底いえない。

二  争点2(被告レナウン・エスパは、被告ら商品の製造、販売に加担したことにつき、故意又は過失があるか)について

【原告の主張】

1 被告レナウン・エスパは、元注文主であるアンフィニーに原告商品の模倣品である被告ら商品を作る意図であることを知りながら、平成五年一二月頃、原告商品を解体分割して合計一六八サイズの型紙を作成し、同月から平成六年六月頃にかけて被告ら商品を製造した。

2 仮にそうでなかったとしても、次の(一)ないし(六)の事実によれば、被告レナウン・エスパは、被告ダリから被告ら商品の委託加工を受けたとき、元注文主たるアンフィニーが被告レナウン・エスパを訪問したとき、平成五年一一月に、被告ら商品がモデルチェンジではなく、原告商品のデッドコピーの様相を帯びたとき、平成六年一月二五日、被告レナウン・エスパがアンフィニーを訪問したときのいずれかの段階において調査をすれば、原告商品を製造販売している者として原告の存在を予見することができ、被告ら商品の製造を中止する機会があったというべきで、この点で少なくとも過失がある。

(一) 被告ら商品の製造に当たり、被告ダリから元見本となる原告商品の提示を受けた際、「マリアマリアン」のネームを確認している。

(二) 被告ダリから具体的に指示された元見本との修正点は、ボディスーツ及びボディシェーパーについては、裏打ちの修正のみである。

(三) モデルチェンジであれば、当然、旧商品の型紙が存在するにもかかわらず、型紙は廃番になった、「今後いろんな問題が起こっても、ダリとしては責任を持つ。」という被告ダリの訴外春日拓(以下「春日」という。)の言を漫然と信じ、調査をしていない。

(四) 修正を繰り返した結果、平成五年一一月、被告ら商品の形態・身生地・色がすべて原告商品と同一になったにもかかわらず、旧商品のモデルチェンジであるという被告ダリの言に疑念を持たなかった。

(五) アンフィニーが被告レナウン・エスパの工場で、原告商品の現物を解体しているにもかかわらず、アンフィニーに対し、型紙及びモデルチェンジであることの確認をしていない。

(六) 平成六年一月二五日、元注文主がアンフィニーであることを知って、アンフィニーの事務所にて微調整を行った際にも、型紙及びモデルチェンジであることの確認をしなかった。

3 被告レナウン・エスパは、被告ら商品を委託加工したにすぎないと主張するが、仮にそうであるとすると、被告レナウン・エスパの行為は、縫製業界での通常の取引慣行からみて異例なものである。すなわち、縫製業界では、委託加工取引の場合、通常、発注主から縫製資材一式(身生地、レース、副資材)、縫製仕様書(資材指定、使用機種、運針、縫い代、糸使い、注意点)、縫製規定書(置寸、上がり寸法)、縫製見本、型紙、要尺明細書(各資材の必要量明細)の一式が提供され、これに基づき縫製業者が発注商品の製造に入る。ところが、本件の場合、被告レナウン・エスパは、発注主から右のうち縫製資材一式以外が提供されず、自ら原告商品の現物を解体して合計一六八サイズの型紙を作成し、被告ら商品の製造をしている。このように、縫製仕様書、縫製規定書、縫製見本、型紙、用尺明細書が提供されず、現物を解体して型紙を作成し、商品の製造を行うのは委託加工取引として異例であり、このことからすると、被告レナウン・エスパは、被告ら商品が原告商品の完全な模倣品であることを認識していたことは明らかである。

【被告レナウン・エスパの主張】

被告レナウン・エスパには故意も過失もない。

1(一) 被告レナウン・エスパは、被告ダリから、従来商品をモデルチェンジし新企画として売り出したいこと、そのための加工を依頼したいこと、新企画名はMOE企画であるということの説明を受けて、元見本として原告商品を示された上で委託加工の注文を受けた。被告ダリの依頼は「これと同じものを作ってくれ。」「これと似たような商品を作ってくれ。」というものではなかった。

被告レナウン・エスパは、以前にも委託加工を行ったことがあるが、その際には、元見本が実用新案権等を侵害するおそれはないか、全く同一又はその商品と混同するおそれがあるほどに類似させるような加工ではないか、という観点から検討した。本件でも同様に検討した結果、原告商品は実用新案権等を有していないこと、一見して例えばワコールの商品であるといった際だった特徴は存在せず、補整下着において一般的に認められる特徴を有しているのみであったこと、また、被告ダリの依頼は、元見本である原告商品に対し、数々の加工を加えるということであったところ、下着業界においては、他社の製品を参考にして新たな製品を開発・製造することは一般的に許容されていることから、本件の委託加工は一般的に許容される製品開発の一方法であると判断し、被告ダリとの間で、平成五年八月三一日、委託加工契約を締結した。

(二) 一般にモデルチェンジとして従来商品が持ち込まれる場合、従来商品にはプリントネームがついているのが普通であり、プリントネームがついた商品が持ち込まれたからといって、注文内容が不自然であるとはいえない。

また、被告ダリの依頼は、商品名を変更することが前提となっていたのであるから、プリントネーム「マリアマリアン」につき商標権侵害が生じることはなく、被告レナウン・エスパが商標権について特に調べる必要はなかった。しかも、平成五年八月当時、「マリアマリアン」はまだ商標登録されておらず、調査しても訴外伊藤忠商事株式会社(以下「伊藤忠」という。)が商標出願していることが判明するだけであるから、被告レナウン・エスパとしてはその使用許諾先等について調査する手段がそもそもなかった。

(三) 委託加工契約に基づき、被告ダリは細部にわたり具体的に数々の指示をし、この指示に基づき被告レナウン・エスパは加工をしたのであって、その結果、争点1【被告レナウン・エスパの主張】2のとおり、被告ら商品には原告商品と数々の相違点がある。

(四) 被告レナウン・エスパは、被告ダリに型紙の提供を依頼したが、商品がすでに廃番となっており、型紙も処分されているとの回答であったことから、やむなく現物を解体したものである。

数多くの新商品が続々と縫製される現在では、ある一つの商品について廃番にした後もその型紙を長期間にわたり保管しておくとは限らない。型紙の保管については、基本的に各社が自由に決定する事柄であって、法定の保存期間なるものはない。また、型紙は、裁断する際に破損したり、何度も使用するうちに消耗したりするものであるし、さらに、注文主が製造者を変更する場合に、従前の工場から型紙の返還を受けないこともよくあることである。したがって、型紙がないからといって、不自然な注文とはいえない。その上、被告レナウン・エスパは、春日が伊藤忠商事に勤務していたころから取引があり信用していたこと、被告ダリとも本件がはじめての取引というわけではなかったこと、春日から「絶対に変なことにはならない。問題が起きたときは責任をとる。」との確約を得ていたこと、委託加工を受ける側としては元注文主が誰かを注文主に尋ねることは困難で、仮に尋ねても被告ダリが教えることは通常考えられないことを総合すると、従来商品が廃番となっているので、型紙がないという被告ダリの説明を信用した被告レナウン・エスパに過失があるとはいえない。

(五) 原告は、平成五年一一月には、商品の形態、身生地、色がすべて元見本である原告商品と同一になったのであるから、模倣であることに気づくべきであったと主張するが、そもそも争点1【被告レナウン・エスパの主張】のとおり、被告ら商品は原告商品と同一とはいえない。しかも、被告レナウン・エスパは、元見本を参考にして改良を加えて作製したサンプルを前提にして指示を受けて修正を加え、さらにサンプルを作製するという作業を繰り返し、より良い商品を作るために研究、努力しただけであって、決して元見本と同一の形態の商品を縫製することを意図していたわけではない。仮にアンフィニーにデッドコピーを作る意図があったとしても、これを見抜けなかった被告レナウン・エスパが非難されるいわれはない。

(六) 被告レナウン・エスパの藤原正和が、アンフィニーの代表取締役であった梅津貞政(以下「梅津」という。)らとはじめて会ったのは平成六年一月二五日であるが、このとき、春日の依頼により、モデルの女性に被告ら商品を試着の上、不具合を指摘してもらい、改良点を検討したにすぎない。被告レナウン・エスパは、あくまでも被告ダリと契約したのであるから、アンフィニーが最終の注文主か否か確認していないし、確認する必要もない。

また、梅津らが被告レナウン・エスパの工場を訪問したのは、平成六年六月二二日である。すでに商品の半分近くを発送した後であったが、被告ら商品のうちブラジャーについてクレームがあり、梅津らが現物を持参してきたので、原因を究明するためこれを解体してサンプルと比較するなどの作業したのであって、原告商品を解体したのではない。

三  争点3(被告ダリは、被告ら商品の製造、販売に加担したことにつき故意又は過失があるか)について

【原告の主張】

1 被告ダリは、アンフィニーが原告商品の販売代理店でありながら、原告商品の模倣品の販売を意図していることを知った上で、被告レナウン・エスパに原告商品を提示して解体し、被告ら商品の型紙を作成させ、これに基づいて被告レナウン・エスパが製造した被告ら商品を被告ベスタイル、ルネ・ローランを通じてアンフィニーに販売した。

2 次の(一)ないし(三)の点からみて、被告ダリは、原告商品の模倣品である被告ら商品の製造に積極的に加担したものである。

(一) 被告ダリは、被告ベスタイルの依頼により、平成五年八月、伊藤忠商事を通じて、訴外マツモト・テキスタイル株式会社(以下「マツモト・テキスタイル」という。)に対して、綿混トリスキンの引き合いをしたところ、同社から原告との約定を理由に拒否された。そこで、被告ダリは、同年一〇月に再度、マツモト・テキスタイルに対し引き合いをし、その際、カモフラージュに訴外旭編物株式会社(以下「旭編物」という。)を介在させ、しかも用途を「有店舗及びレナウン関係への販売」と偽って、マツモト・テキスタイルから綿混トリスキンを出荷させた。マツモト・テキスタイルは、同じく生地メーカーである旭編物からの引き合いであるが、同業者間では染色工程を経ていない「生機」取引がままあること及び用途が有店舗であったことから、疑念を持つことなく出荷してしまったのである。

(二) 被告ダリは、被告レナウン・エスパに原告商品の現物を提供し、これを同じ商品を製造するように依頼し、アンフィニーの元に原告商品の型紙がもともと存在しないにもかかわらず、廃番になった旨虚偽の事実を告げた。

(三) 被告ダリは、平成五年九月一六日に、被告ベスタイルの事務所兼自宅でアンフィニーの取締役豊田幸一(以下「豊田」という。)及び梅津とはじめて顔合わせをした後、商品の品目の詳細や資材の確認などのために、直接打ち合わせをして、具体的な作業を行った。

【被告ダリの主張】

1(一) 被告ダリは、次のことからも明らかなように、直接の取引相手である被告ベスタイルの指示に従って試行錯誤した結果、被告ら商品を製作したものであり、模倣の意図はなかった。

(1) 平成五年八月二〇日の時点で、生地について、富士紡績とマツモト・テキスタイルの二種類を検討していた。仮に、原告商品と同一商品を作るのが目的であれば、最初からマツモトテキスタイルの綿混トリスキンの入手に力を注げばよい。

(2) 平成五年九月七日の時点で、MOE企画の生地についてナイロンドリスキンを使用してサンプルの作成を指示しているが、このようなMOE企画と平行してピンク企画も検討しており、同年九月二一日には、ピンク企画のサンプル修正が指示されている。

(3) 被告ベスタイルの指示に基づいて、被告レナウン・エスパに対し、サンプルについての変更点を指示しており、平成五年一二月二二日の段階でも修正個所の指示がなされている。

(二) 被告ダリは、被告ベスタイルから「綿混トリスキン」を要求されたので、マツモト・テキスタイルと訴外ト部株式会社(以下「ト部」という。)に引き合いを出したところ、マツモト・テキスタイルから「訪問販売用であれば出すことはできない」と拒否された。しかしながら、旭編物の熊坂から同社を通じて手配することができることを教えられ、同社に依頼して入手した。この際、旭編物には、訪問販売用のファンデーションに使用することを説明しており、虚偽の事実を告げて入手したわけではない。一方、ト部からは二種類の綿混トリスキンを入手することができることになったが、すでに被告ベスタイルがマツモト・テキスタイル又は富士紡績にすることを決めていたことから、結局、ト部からは入手しなかったのである。

(三) 他人の商品を分析してそこに利用されている技術を抽出し、その技術に基づいて商品化し、商品を販売する行為や他社の同種製品を解体分析することは研究行為の一環であり、その技術などが知的財産権として保護されていない限り、何ら違法ではない。

本件では、被告ダリが被告レナウン・エスパに元見本として原告商品をを渡し、パターン(型紙)の作成を依頼した。被告レナウン・エスパが自らの判断でこれを解体して分析した。このような解体分析も研究行為の一環であり、何ら違法性はない。なお、被告ダリの春日は被告レナウン・エスパに対し「型紙はない」といったのであって、「型紙は廃番になった。」とは告げていない。

2 また、被告ダリには、故意も過失もない。

(一) 被告ダリは、被告ベスタイルの指示で被告ら商品の製作に取り組み始めた平成五年七月にはアンフィニーを知らなかった。被告ダリの春日がアンフィニーの関係者にはじめて会ったのは、同年九月であるが、時間も短く、製品に関する直接の指示もなかったし、また、被告ダリに被告ら商品の製作の話を持ち込んだ被告ベスタイル自身、アンフィニーに対して商品の改良という観点から独自の意見を展開したものの受け入れられなかったという経緯があり、被告ベスタイルとアンフィニーとの間にすら共謀があったとはいえない。まして、被告ダサとアンフィニー間に被告ら商品の製造につき共謀があったとは到底言えない。

(二) 被告ダリは、注文主から特定の衣料品を示され、これと同じ物を製作してほしい旨の指示を受けた場合、通常、<1>特許権など他人の権利侵害に協力・加担することにならないようにするため、示された商品が注文主以外の者の特許権や意匠権の対象となっていないこと、<2>商品に付されている商標が、注文主以外の商標である場合、商標まで同一にすることを求めるものではないこと、<3>持ち込まれた商品に一見してわかる当該商品独自の目立った特徴があり、同一の物を製造することが、その製造販売元を偽ったり、混同させることになるようなものではないこと、の三点から検討している。

本件の場合も、右の三点につき検討したところ、いずれの点についても問題がないことを確認し、その上で原告商品を参考に被告ら商品を製造し、被告ベスタイルに納入したのである。

四  争点4(被告ベスタイルは、被告ら商品の製造、販売に加担したことにつき故意又は過失があるか)について

【原告の主張】

1 次の(一)ないし(三)の事実からみて、被告ベスタイルの代表者南方博之(以下「南方」という。)は、アンフィニーから被告ら商品の製造依頼を受けた平成五年八月当時、アンフィニーが取り扱ってい九のは原告商品であり、原告が製造販売している商品であることを知っていた。

(一) 南方は、被告ベスタイルの取り扱っている補整下着の売り込みのため、平成五年七月、訴外ピュアジャパンこと木下正和に同道されて、アンフィニーを訪問したが、当時、アンフィニーは原告の販売代理店であったことから、これを断った。

(二) 南方は、翌月、再度アンフィニーを訪問した。この際、アンフィニーは、商品を変えるつもりはないが安くできるのであれば買いたいといい、原告商品と同一の身生地である綿混トリスキンが入手できるか打診した。これに対し、南方は「当社には、伊藤忠がついていてどんな資材でも入手でき、問題が発生しても天下の伊藤忠が解決するから何の心配もない。」と豪語し、春日に早速綿混トリスキンの入手を依頼した。

(三) 南方は、アンフィニーの豊田及び梅津と、原告への弁明に備えて、被告ら商品を売り込みに来たのは被告ベスタイルではなく、第三者であることにしようと相談し、平成五年一〇月一三日、アンフィニーの従業員の訴外重松克則を代表取締役、南方を取締役としてルネ・ローランを設立した。

2 仮に原告商品を原告が供給していることを知らなかったとしても、アンフィニーから原告商品の現物を提示してその改良を依頼されながら、結果的には、被告ベスタイルの意見は無視され、被告ら商品は元となった原告商品のデッドコピーとなった。このような被告ら商品が市場におかれて流通すると、真正な商品の供給者の権利・利益が侵害されることは容易に予見できたにもかかわらず、被告ベスタイルは何ら調査せずに、被告ら商品の製造、販売に加担したのであるから、少なくとも過失がある

3 被告ベスタイルは、被告ら商品の元注文主であるアンフィニーの意向に沿って被告ら商品を提供したにすぎないのであると主張するが、アンフィニーの行為自体が原告との代理店基本契約に反した債務不履行行為であるから、このような債務不履行行為に加担すること、すなわち、デッドコピーの商品の製造を請け負うこと自体公序良俗に反している。アンフィニーからの意向に沿うものであったとしても何ら被告ベスタイルの責任を軽減するものではない。

【被告ベスタイルの主張】

被告ベスタイルは、アンフィニーの豊田、梅津から商品の改良をしたいとの申し出を受けて具体的な改良の提案を誠実に行ったにすぎないのであって、模倣の意図など全くなかった。このことは、被告ベスタイルが、被告ら商品の第二回生産以降は全く受注していないことからも明らかである。アンフィニーが原告の販売代理店であるとは知らなかったし、改良に向けた打ち合わせは、アンフィニーと被告ダリとの間で重ねられていたため、商品に改良を加えたい旨のアンフィニーの話に疑義を挟む余地はなかった。

五  争点5(被告らが、原告に対し損害賠償義務を負う場合に支払うべき金銭の額)について

【原告の主張】

原告は、アンフィニーが原告商品のデッドコピーである被告ら商品を販売したことにより次の損害を被ったのであるから、被告ら商品の製造に加担した被告らもその損害の内金として八〇〇〇万円の損害賠償義務を負う。

1 侵害調査費用 合計 一八二万二六四一円

(一) 商品形態鑑定料 一二三万六〇〇〇円

(二) 写真撮影料 五八万一六四一円

(三) 登記簿謄本取寄手数料 五〇〇〇円

2 逸失利益又は売上減少 一二〇〇万円

3 信用損害を含む無形損害 一億円

4 弁護士費用 六〇〇万円

第四  争点に対する当裁判所の判断

一1  本件は、前記のとおり、被告らが、原告商品の形態を模倣した被告ら商品の製造販売に加担し、それにより原告の営業上の利益を侵害したとして、原告が被告らに対し、不法行為に基づいて損害賠償を請求している事案であるが、各被告が、どのように被告ら商品の製造販売に関与したかについては、被告ベスタイルはアンフィニーから、被告ダリは同ベスタイルから、被告レナウン・エスパは同ダリからそれぞれ被告ら商品製造の注文を受けたのであり、被告ら商品の最終的な注文主(元注文主)が原告の九州地区における販売代理店であったアンフィニーであり、被告ら商品を消費者に販売したのもアンフィニーであることについては当事者間に争いはない。

不正競争防止法(平成五年法律第四七号)は、先行する他人の商品の形態を模倣した商品を販売等してその営業上の利益を侵害する行為を、新たに不正競争行為とし(同法二条一項三号)、差止め及び損害賠償の対象とした(同法三条、四条)が、同時に、同法の施行(平成六年五月一日)前に開始された同法二条一項三号に該当する行為については、同法に基づく差止めや損害賠償の対象とはならないものとしている(同法附則三条二号)。もとより、特別法たる不正競争防止法に基づく差止や損害賠償が認められない場合であっても、一般の不法行為に基づく損害賠償が認められることはあり得るところであるが、自由競争を基本とする社会にあって、一定の行為を不正競争行為として事業者間の公正な競争を確保することが不正競争防止法の趣旨であり、その同法が右のような規定を置いていることを勘案すれば、同法の施行前に他人の商品の形態を模倣した商品の販売等をする行為の場合にあっては、先行商品の完全な模倣品を、先行商品の販売と競合する販売形態で廉価に販売し、あるいは先行商品の販売者との契約に基づき模倣商品や類似商品の販売をしてはならない義務を負う者が契約上の義務に違反して模倣商品を販売する行為に、そのような事情を知りながら積極的に加担するなど、著しく不公正な営業活動と評価されるような場合であって初めて、一般の不法行為を構成することがあり得るものというべきである。

2  ところで、甲第一、第二号証の各1~7、第三号証、丁第六号証の1~8の各1・2及び弁論の全趣旨によれば、原告商品と被告ら商品とを対比すると、基本的な形状及び模様がそれぞれ酷似していることに加え、<1>色彩がシルバーグレーであること、<2>身生地に品番二四八八〇の綿混トリスキン(商品1・2・5・6)又はパワーネット(商品3・4・7)を使用していること、<3>広幅レースを用い、その辺に細幅レースを飾り付けていること等の点において形態が共通しているが、他面、(a)原告商品1・2・3はいずれもフロントレースがカップ下部から始まっているのに対し、被告ら商品1・2・3ではカップ脇から始まっていること、(b)被告ら商品5・6及び原告商品5・6はいずれも前面上縁から股下に向けてV型にレース部分が配されているところ、原告商品5・6のレース部分に比較して被告ら商品5・6のレース部分がやや大きいこと、(c)被告ら商品7及び原告商品7はいずれも前面全体にV型に幅広のレースが配されているところ、原告商品7のレース部分は被告ら商品7のレース部分に比較してやや大きいこと等の点において形態が相違していることが認められる。

このような相違点の存在からすれば、被告ら商品の形態が原告商品の形態と全く同一とまでいうことはできない。したがって、被告ら商品が原告商品の形態を模倣したものであるか否か(争点1)は、右のような形態上の相違点をその共通点との関係でいかに評価するかによって、結論を異にすることになる。

しかし、仮に被告ら商品の形態が原告商品の形態を模倣したものであるとしても、被告らに右1でいうような事情に基づく故意又は過失がなければ、なお被告らの不法行為責任を肯定することはできない(争点2、3、4)。そこで、争点1を判断するに先んじて、争点2、3、4について判断する。

二  各項掲記の証拠のほか、甲第一二、第一三号証、第一六、第一七号証、乙第一三、第二一号証、丁第四号証、戊第一号証、証人梅津貞政、同春日拓、同藤原正和の各証言、被告ベスタイル代表者南方博之本人尋問の結果(いずれも後記認定に反する部分を除く。)によれば、次の事実を認めることができる。

1  原告は、原告商品の販売に先立ち、平成四年三月二五日、アンフィニー(但し、同会社は当時設立手続中であったため、設立後同会社の代表取締役になる梅津が代表者をしていた有限会社エム・オー・イーの名義を使用)との間で、代理店基本契約を締結した(甲九)。同契約においては、原告が有限会社エム・オー・イー(実質的にはアンフィニー)は、「マリアマリアン」ブランドの原告商品を継続的に売買し、有限会社エム・オー・イーは原告商品を誠意をもって販売することを約束し、著しく名誉、信用を失墜させる行為をしないことを誓約する旨の条項が定められていた。

2(一)  平成五年七月ころ、被告ベスタイルの代表者南方は、被告ベスタイルの商品を売り込むため、木下正和と一緒にアンフィニーを訪問し、被告ベスタイルの取り扱っている商品の説明をした。南方は、当時アンフィニーが原告の販売代理店であることを知らなかった。その後、南方は、再度アンフィニーを訪問し、その際被告ら商品の製造の注文を受け、元見本として原告商品を受け取った。

(二)  そして、被告ベスタイルは、被告ら商品の製造を、従前から補整下着の製造を請け負っていた被告ダリに下請けに出した。また、被告ダリは、以前から取引のあった被告レナウン・エスパに被告ら商品の製造加工を委託した。なお、これら被告ベスタイルから被告レナウン・エスパまで被告ら商品の製造が下請けされていく過程においては、元見本となった原告商品が順次引き渡されただけで、型紙(パターン)の交付はされなかった。

(三)  同月三〇日、被告ベスタイルは、被告ダリに対し、生産する品目(生産アイテム)、生産するサイズの範囲(サイズレンジ)、月平均生産枚数などの大枠及び生産スケジュールの指示をした。

3(一)  被告ダリは、被告ベスタイルからの話を受けて、マツモト・テキスタイルやト部等に対して、身生地の引き合いを出した。被告ダリでは、一連の交渉は、伊藤忠から出向して専務取締役の地位にあった春日が担当した。

(二)  同年七月二九日、マツモト・テキスタイルは、被告ダリの右引き合いに対し、トリスキンのうち、品番二三八〇〇、同二三四八〇、同二四六〇〇、同二四六八〇についてその使用糸種及びデニール、混率、単価を記載した見積書を提出した(丁二)。右品番にかかるトリスキンは、いずれも綿混でないナイロントリスキンであった。

(三)  被告ダリでは、このようにして身生地の調達を進めていたが、被告ベスタイルから、綿混トリスキンを調達するよう指示がなされた。

(四)  そこで、同年八月初め、被告ダリは、伊藤忠を通じて、マツモト・テキスタイルに綿混トリスキンの引き合いをした。この際、マツモト・テキスタイルは、原告商品に使用しているのと同一の品番二四八八〇の綿混トリスキンについて、その品番を指定して引き合いを受けたが、右品番の綿混トリスキンはマツモト・テキスタイルと原告及びオペア(原告商品の製造会社)が共同で開発したもので、無店舗販売の補整下着業界の同業他社には供給しない旨を原告との間で約束していたことから、右引き合いの最終製品が補整下着(無店舗)か、有店舗(デパート、スーパー等)用か確認できなかったことから引き合いに応じなかった(甲四)。

(五)  他方、同年八月五日、ト部は、被告ダリからの前記(一)の引き合いに対し、トリスキンのうち、品番二二〇二四、同四〇二五、同四五二八〇、同四七九一につき、単価のほか、糸使い、ゲージ、規格、物性、パワー等の記載された品質・性能表を添付して回答した(丁三の1~5)。

4(一)  同年八月五日、被告ダリは、被告レナウン・エスパに対し、「先日送らせて頂いたベスタイル様の新企画の見本の件ですが、パターン作成の際、下記の点を加えて下さい。」で始まる文書を送付した(乙四)。

(二)  同月二〇日、被告ダリは、被告レナウン・エスパに対し、「MOE企画9/6納期でお願いしているFirst Sample下記明細でお願いします。」で始まる文書を送付した(乙五)。このMOEとはこの当時のアンフィニーの社名(有限会社エム・オー・イー)であるが(甲九)、サンプルの明細としては、マツモト・テキスタイルと富士紡績から取り寄せた両素材についてサンプルを作成するよう指示されている。

(三)  同月三一日、被告ダリと被告レナウン・エスパは、委託加工契約を締結し、委託加工契約書に調印した(乙一)。

(四)  同年九月一日、被告レナウン・エスパは、被告ダリに対し、マツモト・テキスタイルのトリスキン及び富士紡績のトリスキンタイプの双方について、用尺見積を提出した。

(五)  同月七日、被告ダリは、被告レナウン・エスパに対し、「ベスタイルサンプルの件、下記の通りお願いします。」で始まる文書を送付した(乙六)。そこでは、MOE企画のサンプルは、ボディ・スーツとブラジャーを各一点ずつ、生地はナイロントリスキンを使用すること等が指示されている。また、同時に被告ベスタイルにサンプルを作成する企画として、MOE企画のほかにピンク企画も指示がなされている。ピンク企画とは、MOE企画と並行的に開発が進められた企画であるが、MOE企画のパターンを流用し、富士紡績の生地を使用すること等の指示がなされており、MOE企画の色違いともいえる企画であった。

5(一)  同月一六日、被告ダリは、アンフィニーの梅津及び重松とはじめて会い、その上で、作成されたサンプルを基に被告ベスタイルと打ち合わせを行った。その際、被告ダリは、元見本からの変更箇所、マツモト・テキスタイルのトリスキンを使用すること、色彩、六四ゲージの生地を八反ほど準備するようにとの指示を受けた。

(二)  また、同日、被告ダリは、右の打ち合わせ結果に基づき、被告レナウン・エスパに対し、「ベスタイル様“MOE企画”のアイテムに関してのパターン修正箇所を御連絡致します。」で始まる文書を送付した(乙七)。そこでは、七種類の商品について詳細な修正指示が記されているが、ウェストニッパーについては「山をもう少し付ける(元見本通りにする。)」、ボディースーツについては「クロッチ部分を上に上げる。元見本より下になっている。」との指示もあった。

(三)  同月二一日、被告ダリは、被告レナウン・エスパに対し、「先日送って頂いたPINK企画のサンプルありがとうございました。各アイテムごとに修整が有りますので、御連絡致します。」で始まる文書を送付した(乙八)。ここでは、ピンク企画の七種類の商品について細かな修正指示がなされているほか、「先にMOE企画の修整を報告致しましたが、MOEの方は身生地等の手配に時間が掛るので、PINK企画の方を先にお願いします。身生地等は何とか10/末を目標に調整しています。」と記載されている。

6  同年一〇月ころ、被告ダリは、旭編物に、綿混トリスキンの入手を依頼した。そして、マツモト・テキスタイルは、旭編物から、品番二四八八〇のトリスキンにつき品番指定で引き合いを受け、店販用であるとの確認をとった上で、同年一二月に生機(染色前の状態)で出荷した(甲四、五)。

7  同年一〇月一四日、被告ダリは、被告ベスタイルと打ち合わせを行い、各品目(各アイテム)の生産数量、レースや付属品についての指示を受けた。

8(一)  同年一一月一一日、被告ダリは、アンフィニーの梅津及び重松も交えて被告ベスタイルと打ち合わせをし、提出した各品目(アイテム)の見本の修整箇所の指示を受けた。

(二)  同日、被告ダリは、右指示を受けて被告レナウン・エスパに対し、「“MOE企画”の第2回修整です。各アイテムの修整箇所、下記の通りです。」で始まる文書を送付し、被告ベスタイルからの指示を伝えた(乙九)。右文書では、各商品について細かな指示がなされているが、原告商品の形態に近づける内容の指示がある上、最後には、「全て作成したサンプルとMOEの見本サンプルを送りますので、見本サンプルと比べて修正箇所を確認して下さい。」「トリスキン;パワーネットは11/15に出荷可能です。修整後のサンプルは何日上りが可能でしょうか?」と記載されている。

9  同年一二月ころ、アンフィニーは、第一回の注文として、上代ベースで約五億円の発注をした(甲11)。

10(一)  同年一二月二一日、被告ダリは、被告ベスタイルの南方とともにアンフィニーに出向いたところ、一一月に受けた指示(前記8)に基づき修正して提出した見本について、再度修正の指示を受けた。

(二)  同月二二日、被告ダリは、右再度の修正指示に基づき、被告レナウン・エスパに対し、「ベスタイル向け“MOE企画”ですが、またしても修正になってしまいました。各アイテム別修正事項は別紙6枚の通りです。S/GはOKでした。」で始まる文書を送付して、指示の内容を伝えた(乙一〇)。この内容も六枚の用紙にわたって詳細な指示がなされているものであった。

11  平成六年一月七日、被告ダリは、被告レナウン・エスパに対し、「<MOE企画>B.S.シュパーのFrontレース位置」のコメントと商品の部分をコピーして「エッジレース」との書き込みのある文書を送付した(乙一一)。

12(一)  同年一月二五日、被告レナウン・エスパの藤原及び増岡は、アンフィニーの仮事務所に赴き、サンプルを試着したモデルからその意見を聞くととともに、アンフィニーから更なる修正の指示を受けた(乙一二)。

(二)  同年二月、マツモト・テキスタイルが旭編物に出荷した品番二四八八〇のトリスキンが、被告ダリを通じて被告レナウン・エスパに納入された(甲四)。

(三)  同月三日、被告ダリは、アンフィニーからの更なる修正指示に基づき作製した見本を被告ベスタイルに提出した。

(四)  同月一〇日、被告ダリは、被告ベスタイルから右見本についてカップ容量の変更の指示を受け、被告レナウン・エスパに指示の内容を伝えた。

(五)  同月一九日、被告レナウン・エスパは、右指示に基づいて作製した見本を被告ベスタイルに提出した。

13  同月二八日、被告ダリは、被告ベスタイルと交渉し、納入価格を決定して、正式に契約を締結した。

14(一)  同年三月三一日、被告ダリは、被告レナウン・エスパに対し、セールス用のサンプルをアンフィニーに直送するように指示した。

(二)  同年四月一日、被告ダリは、被告レナウン・エスパに対し、モデル着用用のサンプルをアンフィニーに直送するように指示した。

(三)  同月二六日、被告ダリは、被告ベスタイルから初回分の出荷を指示され、同月二八日、アンフィニーに直送した。以後、第一回の発注分については、何度かに分けて納品された。

(四)  被告ら商品は、同年五月ころから、販売が開始された。

15(一)  同年六月二二日、アンフィニーの梅津、重松、アンフィニーの関連会社から二名、被告ダリの佐々木及び被告ベスタイルの藤原の合計六名が被告レナウン・エスパを訪問した。被告ら商品のカップの容積が足りないというクレームの原因究明のため、フィッティングしてポラロイドカメラで写真を撮るともに、セールスサンプル及び生産サンプルを分解した(乙二二)。

(二)  同月三〇日、被告レナウン・エスパは、被告ダリに対し、この分解に基づく見解を報告した(乙二三)。

16(一)  同年六月ころ、原告から伊藤忠に対し、被告ら商品の件で警告書が送られた。

(二)  同年七月一日、原告及びオペアは、伊藤忠の仲介の下、被告ダリに対し、第一回発注分に係る被告ら商品のうち、被告ダリが在庫として抱えている分(売価として約三〇〇〇万円相当)を出荷しないよう要請し、被告ダリは、オペアの依頼を受け、被告ら商品を問題が解決するまで出荷しない旨の文書を書いた(甲一八の1)。

(三)  また、伊藤忠は、被告ダリが抱える在庫を引き取り、オペアに販売する形で仲介を試みたが、被告ベスタイル及び被告ダリの了解が得られなかった(甲一八の3)。

(四)  その後、被告ダリは、被告ベスタイルに対し、その在庫に係る被告ら商品を出荷した。

(五)  アンフィニーからは、同年六月又は七月ころ、被告ベスタイルに被告ら商品の第二回発注がなされたが、被告ベスタイル及び被告ダリは、その要請に応えることはなかった。

三  右認定の事実を前提に、被告らの不法行為責任の有無について検討する。

1  まず、被告らがアンフィニーから被告ら商品の発注を受けた際に、元見本たる原告商品に基づいてどのような発注を受けたのかについて検討するに、前記認定の事実によれば、原告が原告商品の形態上の重要な特徴であると主張する身生地の点については、被告らが、当初から原告商品に使用されているマツモト・テキスタイルの綿混トリスキンを被告ら商品の身生地として念頭に置いていたわけではなく、むしろ、被告ダリが当初に引き合いに出したのは、綿混でないナイロントリスキンであったことが認められる。また、前記認定の事実によれば、被告ら商品は、前記二のとおり、平成五年九月一六日、同年一一月一一日、同年一二月二一日、平成六年一月二五日、同年二月一〇日の五回にわたる修正を経て最終的に現在の形態、身生地、色彩になったこと、右修正は被告ベスタイルを通じアンフィニーが被告ダリ、同レナウン・エスパに指示したものであること、右修正指示は被告ら商品の形態がより原告商品の形態に近づく内容の詳細なものであったこと、被告らはいずれも指示どおりに見本を修正したことが認められる。

これらの事実からすれば、被告らは、元見本を叩き台として補整下着を製造することの注文を受けたのであって、元見本と同一のものを製造することの注文を受けたのではないと推認することができる。そして、被告らは、アンフィニーの指示に従って被告ら商品の製作に当たったのであって、被告ら商品には被告らの考えや意見はほとんど取り入れられていないというべきである。

2  次に、被告らが当初に有していた認識について検討するに、確かに被告らには元見本として原告商品が提供されていたことは前記認定事実のとおりであり、右提供された原告商品には「マリアマリアン」のプリントネームが付いていたものと推認される。しかし、本件において、そのことを被告らが明確に認識していたか否かは明らかではない。また、補整下着に限らず、製品の開発や改良のために他社製品を購入し、場合によっては解体する等して研究し、それを参考としてより優れた商品を開発していくこと自体は、特段不公正な競争手段でもなく、前記証人らの証言からすれば、補整下着の業界においてもよく採られる開発手法であると認められる。このような状況を前提として、前記のとおり被告らは原告商品をあくまで叩き台として発注を受けたにすぎないこと、マリアマリアンという商標自体は格別周知とはいえなかったこと(前記各証人らの証言)を併せ考えれば、被告らが元見本たる原告商品にどのような商標が付されていたのかについて特段の関心を払っていなかったというのも自然なことであり、被告らが、自分たちが形態模倣品を製造しようとしているとの認識を有していたとは認め難い。

3  以上からすれば、当初から被告らに、形態模倣品を製造して、原告の営業上の利益を侵害する積極的意図があったといえないばかりか、右の事情を知りつつあえて被告ら商品の製造に関与したということもできない。

ところで原告は、元見本として原告商品が提供されて、右提供された原告商品には「マリアマリアン」のプリントネームが付いており、元注文主であるアンフィニー以外の者の商品であることを知ることは容易であったから原告には過失があると主張するが、2で述べたことからすれば、仮に元見本の製造販売者と元注文主とが同一ではないことが判明したからといって、製造の注文を受けること自体が違法となるとまではいえない。

また、原告は、旧商品のモデルチェンジであれば当然型紙が存在するにもかかわらず、これを確認していないとか、「廃番になった」との言を安易に信じたという点も挙げて被告らには過失があったと主張するが、型紙自体にはその保存期間が法定されているわけではないこと、旧商品といっても何年前のものか明らかでなく、古いものであれば型紙自体を廃棄していたとしてもさほど不自然ではないことを考慮すると、旧商品のモデルチェンジであれば当然型紙が存在するにもかかわらず、これを確認していないことや、「廃番になった」との言を信じたことをもって直ちに過失があるということは困難である。

よって、原告の主張はいずれも採用できない。

4  もっとも、仮に被告ら商品が原告商品の形態を模倣したものであるといえるとすると、被告らは、その形態を原告商品の形態に近づけることを内容とする修正指示を受けているのであるから、元見本を現物として渡されている以上、修正を進める過程において、修正指示に従えば形態模倣品を製造することになることは認識し得たはずであるとも考えられる。

しかし、被告らはいずれもアンフィニーを源として順次被告ら商品の製造の発注を受けたものであり、その契約の本旨は、発注者たるアンフィニーの意向どおりの物を製造し、納品することにあって、発注者の意向に背けば契約違反の責任を問われる危険を常に負担している状況にある。しかも、前記認定のとおり、被告らは、元見本たる原告商品を叩き台として補整下着を製造するものとして被告ら商品の製造に関わって行ったのであり、仮に被告ら商品が原告商品の形態模倣品であるとしても、それはその後のアンフィニーの指示によって模倣の要素を強められていったからであって、当初の被告らの認識とは外れて行ったものであるといえる。

このような被告らの置かれた立場や状況を勘案すれば、アンフィニーが被告ら商品を販売したことについて、アンフィニー自身は、原告との間の代理店基本契約に基づく義務に違反したものとして、原告に対する損害賠償責任を免れないものと評価できるとしても、前記認定によれば、被告らについては、不正競争防止法(平成五年法律第四七号)の施行前に被告ら商品の販売等に関与したものであって(前記二14(三))、アンフィニーの右行為に関わった態様においても、著しく不公正な営業活動であったとまではいえない。

5  以上を総合すると、本件において、被告らにそれぞれ不法行為責任を認めることはできない。

四  よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、主文のとおり判決する。

(平成一〇年一〇月二九日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 瀬戸啓子)

物件目録(一)

別紙の写真に示す補整下着(正面写真並びに裏面写真添付)

1.ボディースーツ

2.ボディーシェーパー

3.スリーインワン

4.ブラジャー

5.ロングガードル

6.ショートガードル

7.ウエストニッパー

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

物件目録(二)

別紙の写真に示す補整下着(正面写真並びに裏面写真添付)

1.ボディースーツ

2.ボディーシェーパー

3.スリーインワン

4.ブラジャー

5.ロングガードル

6.ショートガードル

7.ウエストニッパー

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

別表一

原告の主張 被告レナウン・エスパの主張 被告ダリの主張 被告ベスタイルの主張

(1)広幅レースをを使用した。 従来の補整下着にはボーダーレースが用いられていたところ、このレースは幅が4インチ、6インチ、8インチの3種類に限られており、幅が狭いので広い部分には用いにくい、柄に方向性があるためブラジャー、ウエストニッパー、ロングガードル等を重ね着した場合、柄に統一性がなく一体感がなくなるという難点があった。 原告商品は、補整下着業界で初めて広幅レースを採用してこの難点を克服した。すなわち、広幅レースは、約135cmの幅の中にモディファイした同一花柄を連続的に配列したものであるため広い部分にも用いやすく、柄に方向性がないので重ね着した場合、柄に統一性、連続性の一体感を作出することができる。原告は、数多く存在する広幅レースの中から、特に豊栄繊維社製のNo.3810(蓮華様の花とペーズリー模様状の葉っぱをデザイン化したものを組み合わせた柄)を採用した。 補整下着と呼ばれる以前から、ボディスーツ、ボディシェーパー、スリーインワン、ブラジャー、ロングガードル、ショートガードル、ウエストニッパー等は、数多く製造販売されてきたところ、これらには、広幅レースが一般的に広く用いられている。 原告商品に、豊栄繊維社製のNo.3810のレースが使用されていることは認めるが、広幅レースを用いると柄に統一性がなく、一体感がなくなるとの点は否認する。 原告が主張する「統一性」「一体感」というのは、見るものの主観に左右されるものであり、ボーダーレースであると統一性や一体感を出すことができないということはない。レースの使用の仕方、工夫によって柄を合わせることもできるし、同種のレースを使うことによって一つの雰囲気を醸し出すこともできる。 広幅レースは、一般に市販されており、誰でも容易に入手でき、しかも広幅レースを使った商品はよく見られる。

(2)フロントパネルのV型一体化設計をしている。 従来の補整下着は、重ね着するのが常態であるにもかかわらず、重ね着した場合の統一性、一体化に対する配慮工夫がなされていなかった。 原告商品は、原告商品1ないし7をどのように組み合わせて重ね着しても、フロントパネルにおけるレースで装飾された部分がV型ゾーン(デルタ形状)として一体化するように構成されている(なお、このV型ゾーンの一体化のためにも広幅レースの採用は不可欠であった。)。 従来の補整下着は、重ね着するのが常態であることは認める。 しかしながら、フロントパネルがV型のデザインの補整下着は、原告商品以前にも数多く製造販売されてきた。現に、被告レナウン・エスパの「1989年秋冬物品番8916634」にも、フロントパネルがV型のデザインが採用されている。 従来の補整下着が重ね着をした場合の統一性や一体化に対する配慮工夫がなされていなかったとの点、原告商品がV型ゾーンの一体化のためにも広幅レースの採用が不可欠であったとの点は否認する。 V型ゾーンの採用やV型ゾーンの装飾とくにレースによる装飾は、従来から補整下着又は下着一般で採用されている。また、ボーダーレースであっても、レースの使い方の工夫により、重ね着の場合の一体性を出すことは可能である。

(3)広幅レースの辺に細幅レースを飾り付けた。 原告商品は、広幅レースの装飾部分の辺に約10mm程度の細幅レースを飾り付け、広幅レースの装飾部分を立体的に浮かび上がらせている。 原告商品は、広幅レースの装飾部分の辺に約10mm程度の細幅レースを飾り付けていることは認める。 しかしながら、フロントパネルのV型の縁に、約10mm程度の細幅レースを飾り付けることは、生地の裁端を隠すための一般的な手法である。 原告商品は、レースの装飾部分の辺に細幅レースを取り付けている点は認める。 しかしながら、面積を広く使ったレースの縁に別の細幅レースを飾り付けることは何ら目新しい手法ではない。レースの辺を飾る方法は、フリル、トリミング、リボンの利用、色違いの素材を使う等の方法があり、別の細幅レースで飾ることも従来から用いられてきた手法である。

(4)身生地に特殊な綿混トリスキンを採用した。 従来の補整下着に使用されていた身生地は、合繊100%の経編地が主流であり、縦の伸縮度を10とすると横の伸縮度は2ないし3程度しかなく固いため、着用すると息苦しく、長時間着用するのに難点があった。 原告は、マツモト・テキスタイルの協力のもとに、縦の伸縮度を10とすると横の伸縮度が7ないし8あり、かつ、吸湿性に富む綿糸を編み込んだ綿混トリスキンという身生地の開発に成功し、補整下着業界で初めて綿混トリスキンを採用し、その結果、着用感が日常的な下着をほぼ同様でありながら、十分な補整効果を得ることに成功した。 綿混トリスキンは、従来より、マツモト・テキスタイル、ト部株式会社及び門田レース工場株式会社において生産されており、補整下着の身生地として一般的に使用されている。 被告レナウン・エスパは、補整下着の製造に当たり、ト部株式会社で生産した綿混トリスキンを10年前より使用している。 原告商品の身生地に綿混トリスキンが採用されていることは認める。 しかしながら、綿混トリスキンというのは、縦横に一定の伸びを示す素材であって、下着に適した素材の一つにすぎない。他の素材もそれぞれ独自の伸び率、吸湿性、感触をもっているおり、下着には綿混トリスキンが最適であるといわれているわけではない。 原告商品に採用されている、綿混トリスキンの生地は、東レ系列の三社の工場で、同じ規格で大量に製造されている。これら工場で製造されているトリスキンは、目で見ても、手で触っても違いはわからない。また、そもそも綿混トリスキンは、奈良のメーカーのマルコが最初に取り扱ったもので、商品の特徴となるような身生地ではない。

(5)色彩として、光沢に富む藤色がかったシルバーグレーを採用した。 従来の補整下着では、色彩として、明るいパープル、ブラウン、ピンク系統が多く採用されていた。 原告商品は、アウターウエアの傾向を参考に、大人の感覚で若干セクシーな要素を有する落ち着いた色であるグレーを採用し、身生地のトリスキンの光沢ともよく合い、光沢に富むやや藤色がかったシルバーグレーを採用した。 原告商品の色彩が、シルバーグレーであることは認める。 しかしながら、従来から、シルバーグレーは、補整下着に一般的に用いられている。現に、被告レナウン・エスパも、「1989年秋冬物品番8916634」で「カラーNo.96色」として採用している。 原告商品が、色彩として、光沢に富む藤色がかったシルバーグレーを採用しているとの点は認める。 しかしながら、藤色がかったシルバーグレーというかどうかは、主観的で微妙な問題である。これをパープルとかグレーと表現した場合、これらの色彩は、従来から補整下着にも下着一般にも使用されている。 グレーという色は、最近いくつかの会社が採用しており、被告ベスタイルも5年ほど前から採用しているのであって、何ら特徴といえるものではない。

別表二

(1) 原告商品1

原告の主張 被告ダリの主張 被告ベスタイルの主張

<1> 胸部から下腹部にわたり、大きくV型にロータスペイズリー模様の豊栄繊維社製の広幅レースNo.3810を配し、その縁取りに約10mmの細幅レースを飾り付けている。 V型にレースを使った装飾、ペイズリー模様のレース、レースの縁取りに細幅レースを使用することは、いずれも一般的である。 V型のデザインは、12年くらい前にマルコ株式会社が発表して流行した形である。被告ベスタイルも、10年くらい前から採用している。

<2> ヒップ部分の補強のために、ヒップの山がくっきりと出るように三枚はぎで中心線をいせ込んだ設計となっている。 中心のいせ込みは、人間のお尻が膨らみをもった形をしていることから、当然に必要な設計であって、ほとんどのボディスーツやガードルに採用されている。

<3> グリッパー(股下のマチの留め金具)の位置を、着用時の不快感を回避するため他社製品より上位置としている。 グリッパーが他社製品より上部に位置しているとの点は否認する。

<4> 着用前のカップの形の造形のため、ワイヤ入りフルカップ部分の裏面全体に不織布を当てている。 乳房を支えるためにワイヤーが入っているのは、一般的である。 ブラジャーは、乳房を覆う程度によって「フルカップ」「4分の3カップ」「ハーフカップ又は2分の1カップ」の3種類に区分され、フルカップであること自体は何ら独自性はない。 カップの裏面には不織布、木綿、合繊等いろいろな素材が使用されているが、不織布であることが多く、よって、独自性はない。

<5> ブラジャーカップに入れた脂肪の逃げを防ぐため、後身頃の上辺部を限界いっぱいに上げ、しかも直線状としている。 後身頃の上辺部が背面上部に当たり、直線状であることは認めるが、この形自体には独自性はない。 ヒップ部分の作り、グリッパーの位置、カップの形状・素材、カップの上辺部分を直線状にしたという点は、いずれもごく一般的なことであり、むしろ、これ以外のデザインの方が少ない。

(2) 原告商品2

原告の主張 被告ダリの主張 被告ベスタイルの主張

<1> 原告商品1の<1>、<4>、<5>と同じ。 原告商品1の<1>、<4>、<5>についての該当個所と同じ。

<2> 裾全周にわたり、カメリヤ柄のインチ幅レースを飾り付けている。 一般的なデザインである。 特徴といえる点はない。

(3) 原告商品3

原告の主張 被告ダリの主張 被告ベスタイルの主張

<1> 原告商品1の<1>と同じ。 原告商品<1>、<4>、<5>についての該当個所と同じ。

<2> 従来の他社製品は、ガーターベルト機能を有し、裾レースがついていたが、原告商品3は、ガーターベルトの機能を除き、裾レースを省いている。 裾レースが省かれている商品は、原告商品に限らない。 裾をフリルにして装飾性を重視するか、これを省いてすっきりしたものにするかは、デザインの問題にすぎず、いずれを選択したからといって独創性があるといえるものではない。 特徴といえる点はない。

(4) 原告商品4

原告の主張 被告ダリの主張 被告ベスタイルの主張

<1> カップを含む表面全面に、ロータスペイズリー模様の豊栄繊維社製の広幅レースNo.3810を配し、その胸元上辺の縁取りに約10mmの細幅レースを飾り付けている。 V型にレースを使った装飾、ペイズリー模様のレース、レースの縁取りに細幅レースを使用することはいずれも一般的である。

<2> 従来の他社製品は、アンダーテープが10ないし15mm幅と狭く、そのため脂肪の下垂を止めるため強く締める必要があり、圧迫感があったが、原告商品4は、30mmの広い幅のテープを採用したため、脂肪の下垂防止効果も高く、また、広幅であるため圧迫感が平均化して着用感に優れている。 乳房下部部分が幅広な形は従来からある。

<3> 原告商品1の<4>と同じ。 原告商品1の<4>についての該当個所と同じ。 特徴といえる点はない。

(5) 原告商品5

原告の主張 被告ダリの主張 被告ベスタイルの主張

<1> 前面中央股下に向けてV型に、ロータスペイズリー模様の豊栄繊維社製の広幅レースNo.3810を配し、その縁取りに約10mmの細幅レースを飾り付けている。 原告商品1の<1>についての該当個所と同じ。

<2> 裾部分の身生地の上部に、アイリスペイズリー柄の栄レース社製の4インチレース(両山)No.114009をそのまま広く配している。従来の他社製品は、同種レースを上下に二分した細幅の片山レースを使用していた。 裾部分に、レースを幅広く棒状につけたり、波形にしたり、三角形につけたり、モチーフを切り張りしたりといろいろな工夫が考えられるが、それらはいずれも衣類のデザイン一般に繰り返し使われてきたパターンである。

<3> 原告商品1の<2>と同じ。 原告商品1の<2>についての該当個所と同じ。 3枚はぎが一般的であって、2枚はぎの方が少数である。 大半のメーカーが3枚はぎを採用している。

(6) 原告商品6

原告の主張 被告ダリの主張 被告ベスタイルの主張

<1> 原告商品5の<1>と同じ。 原告商品1の<1>についての該当個所に同じ。

<2> 原告商品1の<2>と同じ。 原告商品1の<2>についての該当個所に同じ。 3枚はぎが一般的であって、2枚はぎの方が少数である。 大半のメーカーが3枚はぎを採用している。

(7) 原告商品7

原告の主張 被告ダリめ主張 被告ベスタイルの主張

前面中央部にV型に、ロータスペイズリー模様の豊栄繊維社製の広幅レースNo.3810を配し、その縁取りに約10mmの細幅レースを飾り付けている。 原告商品1の<1>についての該当個所と同じ。 特徴といえる点はない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例